出産
ついに陣痛がきた。嫁を病院へ送っていく。すごく不安。大丈夫だろうか?自分に何ができるだろうか?
嫁の辛そうな顔。今にも生まれてきそうな切迫感。病院に到着して診察。
「まだ時間かかりそうだから病室に移動して」
「旦那さんは一度家に戻っていいよ」
そう看護士さんに言われ一人で家に帰り、食事とお風呂を済ませる。深夜中には産まれるかも。不安と期待でソワソワする。お風呂から上がると嫁から電話。来た!!!
急いで病院へ。
嫁は辛いらしく息が荒い。
「心配ないよ」
こんな事しか言えない。分娩台に乗せられ出産に向かって準備が進む。緊張感マックス。陣痛が始まってから何時間たったんだろ?
嫁は大丈夫だろうか?
分娩室にはスピーカーから赤ちゃんの鼓動が響く。その音を掻き消すように嫁のうめき声が響く。体力の限界っぽい。ただでさえ体力のない嫁なのに。
「頑張れ!!」
こんなことを言っても普通なら弱音を吐く嫁。しかし、
「がんばる!!!」
と大きなな声で言った。感動した。泣きそうだし初めて嫁の事を尊敬した。酸素マスクを付けながら、意識もうろうとしながら、それでも頑張るって。
深夜1時間半。ついに赤ちゃんの頭が見えた。ここが一番つらいみたい。足の位置が変で嫁は力が入れにくそう。看護師さんに「足の位置変ですよ」って教えたけど、「こういうものよ」って一蹴された。仕方なく自分がともの足を支える。お願いだからあとちょっと。
「頑張れ!!!!!」
私も大きな声を出す。赤ちゃんの頭が抜けた。と思ったら、するりんって。すごく早く赤ちゃんが出てきた!!!おぎゃあって泣いてる!!!
あれよあれよと、少しだけ赤ちゃんの身体を拭いて、ママの胸へペチャン。
赤ちゃんはママにぺったり。泣き止んでる!!!!!すげーー!!!!!ママって分かるのか??
出産を見ると泣くって聞いてた。私の目頭は熱くなってるが、なぜか自然と笑顔になってしまう。にやけてくる。不安から解放されたせいなのか、ママの胸の上でべったりしている赤ちゃん、その光景が可愛すぎるせいだろうか。にやけちまってしょうがない。
嫁に「ありがとう。ありがとう」と心からお礼を言った。嫁は赤ちゃんを見ながら泣いてる。なんて神々しいんだろう。
「旦那さんは外で待っててくださいね」
暗い廊下で一人待つ。さっきの光景を思い出して、にやけながら。隣の分娩室から誰かが出てきた。おおおお、中学の同級生だ!!!!!!!多分話したことも数回しかない。だけどなんだろう、戦友みたいな感じがする!!!!
その子のところも無事に産まれたらしい。
「よかったねーー♪」
その子と抱き合って喜びたかったけど我慢した。
いよいよ赤ちゃんと正式なご対面。
おおおおお!!小っちゃい、可愛い、もうそれだけ!!
生まれて初めて味わう感情。幸せな気持ちってこれか。もう深夜3時。仕事は6時から始まる。ともに感謝の言葉を述べて家に戻る。帰りの車中で想う。
「竜之介っていう顔してたな」
翌日、嫁も「竜之介っていう感じだよね」って言ってた。はい、決定!!
「竜之介、これからよろしくね!!」